MIXの仕上がりが変わる録音のコツ5つ【歌ってみた】
- MIXで整えられるのは録れている音だけ。音割れ・部屋の響き・雑音は、あとから直しきれません。
- 音量は一番大きい所でもピーク −6dB より下。マイクとは約20cm離れて、ポップガードをはさみます。
- 音の出るものを止めて、やわらかいものの近くで録る。ヘッドホンは密閉型。リバーブは聴く音だけにかけて、録音には入れません(かけ録りしない)。
歌ってみたのMIXで整えられるのは、録れている音だけです。音割れ・部屋の響き・大きな雑音は、どんな方法でMIXしても、あとから直しきれません。逆に言えば、録音で少し気をつけるだけで、MIXの仕上がりは大きく変わります。
この記事では、宅録で今日からできる5つのコツをまとめました。高い機材がなくてもできるものが中心です。
なぜ録音が大事なのか
MIXは、録れている音を「整える」作業です。音程や音量のばらつき、声のこもりや刺さりは整えられますが、録れていない音を元どおりに作り直すことはできません。
たとえば音割れ(クリップ)は、録音できる上限を超えた音の頭が切り取られ、その部分の情報が失われた状態です。修復用のソフトで目立たなくできる場合もありますが、切れた部分は推測で作り直すので、元の音そのものには戻りません。部屋の響きや雑音も、歌と一緒に録れてしまうと、きれいに切り分けるのは難しくなります。
録る前に:設定を3つだけ確かめる
歌い始める前に、DAWの設定を確かめておきます。ここがずれていると、どんなに上手に歌っても、あとで録り直しになることがあります。
- 形式は WAV・24bit:MP3のように音を削る形式ではなく、そのままの音で残す
- サンプリングレートはプロジェクトと同じ:44.1kHz か 48kHz。途中で変えない
- 歌は1本ずつ別のトラックに:メインとハモリを分けて録る。同じパートも、何テイクか録っておくと良い所を選べる
どれも一度決めれば、次からは同じ設定のまま録れます。
コツ1:音量は「一番大きい所でも −6dB より下」
いちばん大事なのが、録音の音量(入力レベル)です。オーディオインターフェースの入力のつまみ(ゲイン)で調整します。USBマイクなら、マイク本体のつまみか、パソコンの入力の設定で合わせます。
- サビのいちばん大きい声で試し録りをして、DAWのメーターを見る
- 一番大きい所でも、メーターのピークが −6dB を超えないようにつまみを合わせる。メーターの色が変わる位置はソフトや機材によってちがうので、色ではなく数字で確かめる
- 本番は声が大きくなりがちなので、迷ったら少し小さめに。一番大きい所が −10dB くらいでも大丈夫
録音の設定を24bitにしておくと、少し小さめに録っても、データにする時に出る雑音はほとんど気になりません(エアコンなど、部屋の雑音が減るわけではありません)。なので、大きく録ることより、割らないことを優先して大丈夫です。ただ、メーターがほとんど動かないほど小さいと、あとで音量を上げた時に、部屋の雑音も一緒に大きくなります。
録音中にメーターの赤いランプ(クリップ表示)が一度でもついたら、そのテイクは音割れしているかもしれません。波形を拡大して、上と下が平らに切れていないか確かめましょう。
コツ2:マイクとの距離は約20cm、ポップガードをはさむ
マイクとの距離は、近すぎても遠すぎてもうまくいきません。
- 近すぎる:低い音がふくらんで(近接効果)、こもった声になりやすい。息がマイクに当たって「ボフッ」という音(ポップノイズ)も入りやすい
- 遠すぎる:部屋の響き(部屋鳴り)が多く入り、声が遠く聞こえる
楽器店の解説では、マイクから20cmほど離れて歌い、ポップガードはマイクから10cmほどの所に置く形がすすめられています。ポップガードは、「パ行」などの破裂する音で息がマイクに当たるのを防ぎます。
もう1つ大事なのが、毎回同じ距離で歌うことです。日によって距離が変わると、声の太さや響きが変わり、同じ曲の中でも別の場所で録ったように聞こえてしまいます。ポップガードと口の間をこぶし1つ分(10cmくらい)あける、と決めておくと、距離をそろえやすくなります。
コツ3:部屋の響きと雑音を減らす
防音室がなくても、身近なもので録音の質は上げられます。
- 音の出るものを止める:エアコン・換気扇・パソコンのファンなど。止められないものからは、マイクを離す
- やわらかいものの近くで録る:ソファ・ラグ・ベッドなど、音を吸ってくれるやわらかいものが多い、小さめの部屋がおすすめ
- 歌う人の後ろにも吸音を:マイクの後ろに立てる吸音材(リフレクションフィルター)は手軽ですが、それだけでは、歌う人の後ろの壁に跳ね返った声は防げません。後ろに毛布や布団をかけると、さらに効きます
録音を始める前に、何も歌わずに10秒だけ録って聴いてみるのもおすすめです。「サー」「ブーン」という音が聞こえたら、どこから出ているかを探してみましょう。
コツ4:ヘッドホンは密閉型にして、音漏れを入れない
録音中は、インストをヘッドホンで聴きながら歌います。この時、ヘッドホンから漏れたインストやクリック(メトロノーム)の音がマイクに入ると、歌のデータにインストが混ざってしまいます(「かぶり」と言います)。歌のデータに混ざった音は、あとから取り除くのが難しくなります。
- 録音には、音が外に漏れにくい密閉型のヘッドホンを使う
- ヘッドホンの音量は、歌いやすい範囲で控えめに
- 片耳だけ外して歌う時は、外した側から音が漏れやすいので、とくに音量に気をつける
配信にも使えるミキサー型のオーディオインターフェース(ヤマハの AG03MK2・AG06MK2 など)は、パソコンへ送る音の切り替えに気をつけます。「LOOPBACK」ではパソコンで流した音(インストなど)も、「INPUT MIX」ではエフェクトをかけた音も、一緒にパソコンへ送られます。歌を録る時は、マイクの音だけを送る「DRY CH 1-2」にしておきましょう。
コツ5:エフェクトは録音に入れない(素の声で録る)
歌いやすいように、ヘッドホンで聴く自分の声にリバーブをかけるのは良い方法です。ただし、リバーブをかけたまま録る「かけ録り」にならないようにします。録音に入った響きは、あとから外すのが難しくなります。MIXでは曲に合わせて響きを足すので、素の声で録られている方が仕上げやすくなります。
オーディオインターフェースによっては、エフェクトを「聴く音だけ」にかけるか、「録音にもかける」かを選べます。たとえば Steinberg の UR-C シリーズで使う設定アプリ dspMixFx UR-C では、リバーブ(REV-X)は聴く音だけにかかります。チャンネルストリップ(コンプやEQ)は、聴く音だけにかけるか、録音にもかけるかを選べます。MIXに出す歌は、録音にはかけない設定にしておくのがおすすめです。
書き出す時も、モニター用のリバーブは外して、WAV(24bit)で書き出します。Cubaseでの手順は歌とインストの書き出し方(Cubase)にまとめています。
録ったあとのチェックリスト
| 見る所 | こうなっていたら、録り直しを考える |
|---|---|
| 音割れ | メーターの赤いランプ(クリップ表示)がついた・波形の上と下が平らに切れている |
| 雑音 | 歌っていない所で「サー」「ブーン」がはっきり聞こえる |
| ポップノイズ | 「パ行」などで「ボフッ」という低い音が入っている |
| 距離 | 同じ曲の中で、声の太さや響きが急に変わる所がある |
| かぶり | 歌だけを聴いた時に、インストやクリックが聞こえる |
| かけ録り | 歌だけを聴いた時に、リバーブなどの響きが入っている |
| ファイル | WAVになっていない・歌とインストの範囲がそろっていない |
自動の2MIXは、録音の質がそのまま仕上がりに出ます(Takeme2mix Studioも同じです)。チェックリストに引っかかる所がなければ、MIXの準備はできています。MIXそのものの流れは、歌ってみたのMIXを自分でやる方法にまとめています。
よくある質問
音割れしたテイクは、MIXで直せる?
修復用のソフトで目立たなくできる場合もありますが、切れた部分は推測で作り直すことになり、元の音には戻りません。時間があれば、録り直すのがいちばん確実です。
防音室がないと、ちゃんと録れない?
なくても録れます。音の出るものを止める、やわらかいものの近くで録る、マイクとの距離をそろえる。この3つだけでも、仕上がりは変わります。
録音の音量が小さすぎた時は?
24bitで録っていれば、少し小さいくらいなら問題になりにくいです。ただ、メーターがほとんど動かないほど小さいと、音量を上げた時に部屋の雑音も大きくなります。次からは、試し録りでつまみを合わせましょう。
参考にした情報
- How to fix audio clipping(iZotope・2022年):クリップで失われる部分と、修復ソフトでできること・できないこと
- Q. Should I gain-stage to -6dBFS or -18dBFS?(Sound On Sound):ピーク −6dBFS 前後では余裕が大きくない、24bitならもっと余裕をとってよい
- 自宅でボーカルを録音するための7つのヒント(eMastered・2022年):ピークは −6dB 以下・余裕は10dBほど、やわらかいものの多い小さめの部屋
- 初心者が陥りやすいボーカル宅録の罠(サウンドハウス・2021年):マイクとの距離20cm・ポップガード10cm、近すぎ・遠すぎの問題、リフレクションフィルター
- sE Electronics Reflexion Filter(Sound On Sound・2006年):歌う人の後ろの壁からの反射は防げないので、後ろに毛布などの吸音を
- モニターヘッドホンの『密閉型』と『開放型』って何が違うの?(島村楽器・2025年):録音には音漏れがマイクに入らない密閉型
- 今日からライバーデビュー!? ヤマハの定番配信ミキサー「AG03/06MK2」を試す(AV Watch・藤本健のDigital Audio Laboratory):DRY CH 1-2・INPUT MIX・LOOPBACK でパソコンへ送られる音のちがい
- dspMixFx UR-C ユーザーガイド:エフェクトの活用(ヤマハ・2025年):REV-X は聴く音だけ、チャンネルストリップは録音にもかけるか選べる